再雇用制度のデメリットとメリット|再雇用後の賃金水準や働き方・助成金について解説!
医療技術の発展と高齢化社会が進む日本では、定年を迎えた人たちの活躍の場の確保が急務となっています。それに伴い、近年注目されているのが「再雇用制度」です。この制度は企業側と従業員側双方にどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。この制度を知っているという方も「継続雇用制度」や「再就職」との違いもしっかり理解しているでしょうか。この記事では、再雇用制度の仕組みから助成金まで詳しく解説していきます。
目次[非表示]
- 1.再雇用制度とは?
- 1.1.継続雇用制度とのちがい
- 1.2.再雇用後の働き方
- 1.3.雇用形態
- 1.4.仕事内容
- 1.5.賃金水準
- 2.再雇用制度のメリット
- 2.1.再雇用制度のメリット(企業側)
- 2.1.1.人手不足の解消
- 2.1.2.顧客との関係維持
- 2.1.3.採用コストの削減
- 2.1.4.助成金が得られる
- 2.1.4.1.65歳超雇用推進助成金
- 2.1.4.2.高年齢雇用継続給付金
- 2.2.再雇用制度のメリット(従業員側)
- 3.再雇用制度のデメリット
- 3.1.再雇用制度のデメリット(企業側)
- 3.1.1.若い労働力が育ちにくい
- 3.1.2.希望者は全員再雇用する必要がある
- 3.2.再雇用制度のデメリット(従業員側)
- 3.2.1.年金が減額される場合がある
- 3.2.2.役職や仕事内容が変わる可能性もある
- 4.まとめ
再雇用制度とは?
再雇用制度とは、従業員の希望に応じて定年退職した後も同じ会社もしくは子会社・支社で働くことができる制度です。2013年からはすべての希望者が対象となりました。
引用リンク: 000551650.pdf (mhlw.go.jp)
現在の定年の年齢は、60歳から65歳に引き上げるようにと事業主側に定められていますが、2021年4月の「高年齢雇用安定法の改正」によって、定年を65歳から70歳まで引き上げる努力をすることが企業に義務付けられています。このポイントは、「義務」ではなく、あくまでも「努力義務」となっていることを覚えておきましょう。
引用リンク:「再雇用制度」の内容やメリット、設定方法を解説 2021年4月に変更点も (indeed.com)
(改訂前) 定年年齢65歳まで引き上げる義務
(改定後) 定年年齢70歳まで引き上げる努力義務
継続雇用制度とのちがい
再就職とは、勤めていた会社を退職した後に失業期間(ブランク)を経て、新しい職場(同じ会社でなくてよい)に就職することです。再雇用制度と似ているようですが、同制度は「それまで勤めていた会社に再び就職する」ものであって、再就職はそれに限りません。むしろ新しい職場に就職することが一般的です。
再就職の場合は、「ブランクがある」のが特徴です。また就職に向けてハローワークやシルバー人材センター、転職などを活用して自分で就職先や職種などを選び就職活動を行います。
再雇用後の働き方
日本では60歳以上になっても就労を希望している人たちが高い割合でいることが分かっています。
再雇用制度で定年後に再雇用する場合、企業と従業員は再度、契約を結びなおさなければなりません。その際、再雇用の働き方(勤務時間、業務内容、給与)について双方で合意する必要があります。同制度では、雇用形態、仕事内容、賃金水準がどのように変化するのか、以下で詳しくみていきましょう。
雇用形態
再雇用後の雇用形態はさまざまです。正社員や契約社員、嘱託、パート・アルバイトなどです。厚生労働省の調査によると、65歳を超えても働きたいと思っている人たちが7割近くおり、また多くの人たちがパートタイムで働きたいと希望していることが分かっています。
引用リンク:000551650.pdf (mhlw.go.jp)
就業を希望する理由としては、収入のためという意見が最も多いですが、「生きがい、社会参加のため」と回答した人たちも男女問わず多い傾向にありました。
引用リンク:000551650.pdf (mhlw.go.jp)
仕事内容
みずほ情報総研が16000社に企業アンケートを実施し、定年前と後で業務内容や業務の責任、労働時間がどのように変化したかを分析しています。その結果、ほぼ半数の企業では「定年後も業務の内容に変化がない」となっていますが、業務に伴う責任の程度や労働時間が定年前も変わらないという企業はかなり少ないことが分かります。
引用リンク:mhir19_work.pdf (mizuho-ir.co.jp)
ある程度、再雇用制度によって雇用形態や業務内容にも変化があることが分かります。
賃金水準
定年前後で基本給にも変化があることが分かります。先ほどと同じみずほ情報総研のアンケート結果分析によると、定年前を100%とした場合の定年後の時間当たりの基本給は、「70%以上80%未満」が一番多いことが分かります。その次は「80%以上90%未満」となっています。つまり、定年前後で大幅に減少するということは少ないようです。
引用リンク:mhir19_work.pdf (mizuho-ir.co.jp)
再雇用制度のメリット
再雇用制度を導入するとどういうメリットがあるのでしょうか。
以下では企業側と従業員側の目線に分けて、それぞれの利点を説明していきます。
再雇用制度のメリット(企業側)
まずは企業側のメリットをみていきましょう。
再雇用を導入すると、一般的に次のような利点があるといわれています。
【再雇用制度の企業側のメリット】
• 人手不足の解消
• 顧客との関係維持
• 採用コスト削減
• 助成金が得られる
人手不足の解消
厚労省のデータによると、少子化に伴い若い労働者の人口は年々減少しており人材確保が大きな社会問題となっています。一方で、高齢者の労働者は増加していることが分かります。今後も若い労働者の確保が難しいと予想される分、再雇用制度によって高齢者の働き手を確保することで人手不足が解消できると期待されているのです。
引用サイト:000551650.pdf (mhlw.go.jp)
顧客との関係維持
同じ人材を継続的に雇用できることで、定年前の顧客をそのまま担当できるというメリットがあります。特に営業や医療分野など、人と頻繁に接する仕事では、担当者が変わると顧客が離れていくなどのリスクが発生してしまう可能性がありますが、再雇用制度で引き続き雇用することで企業側にも安定した成果を期待することができます。
採用コストの削減
人手不足解消のために新たに従業員を雇用するとなると、求人広告や選考フローでかかる人的コストなど、多くの費用がかかってしまいます。ですが、再雇用制度を使用すれば、採用コストが大幅に削減されるだけでなく、引き続き同じ業務を継続してもらえることで人材育成のコストや時間がかからないだけでなく、離職のリスクも低いことが予想されます。
助成金が得られる
再雇用制度を導入することで助成金を受け取れるというメリットもあります。助成金は次の2種類があります。
【助成金の種類】
• 65歳超雇用推進助成金
• 高年齢雇用継続給付金
2021年4月に一部改正され、助成内容や対象も変わってきていますので、最新の情報を確認しておきましょう。
65歳超雇用推進助成金
名前の通り、65歳以上の高年齢者が意欲や能力がある限り働くことができるよう助成するものです。助成金は次の3コースで構成されています。
・65歳超継続雇用促進コース
・高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
・高年齢者無期雇用転換コース
65歳超継続雇用促進コースは、政府の「70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務」を受けて、2021年4月に改正されました。それによると、支給額が60歳以上雇用保険被保険者1人の場合には、改正前は、1人~2人の区分で65歳定年を70歳にして20万円でしたが、改正後は、10人未満の区分となり、65歳定年を70歳にして120万円となっています。
高年齢雇用継続給付金
基本手当(再就職手当など基本手当を支給したとみなされる給付含む)を受給していない人を対象とした給付金で、原則として60歳時点の賃金と比較して60歳以降の賃金が60歳時点の75%となっていう人が該当します。ただ、受けるには以下2つの要件を満たしていることが条件です。
・60歳以上65歳未満の一般被保険者
・被保険者であった期間が5年以上あること
ただし4年後には、給付率が70%に縮小されるので注意が必要です。
引用リンク:000744250.pdf (mhlw.go.jp)
再雇用制度のメリット(従業員側)
従業員側にも再雇用制度を利用することで、次のようなことが利点として上げられます。
【再雇用制度の従業員側のメリット】
• 慣れた仕事環境で働ける
• 就職活動の手間が省ける
再雇用制度(継続雇用)を利用しなかった場合、自分で新しい就労先を探すという手間と時間がかかります。またハローワークや求人サイトから申し込んだ後も、面接などの選考ステップがあり、できるだけ早く就労をと考えていても、ある程度仕事開始までに時間がかかってしまいます。一方、継続した雇用の場合は就職活動も必要なく、慣れた仕事環境で働けるため精神的な安定もあります。
再雇用制度のデメリット
再雇用制度には注意しなければならないデメリットもあります。
以下では、企業側と従業員側の両方の視点から解説していきます。
再雇用制度のデメリット(企業側)
企業側へのデメリットとしては、次の2つが主に上げられます。
【再雇用制度の企業側のデメリット】
• 若い労働力が育ちにくい
• 希望者は全員再雇用する必要がある
再雇用制度の導入でメリットもある反面、上記のような悩みを抱える企業も少なくありません。実際どのようなことがあるのか以下で詳しくみていきましょう。
若い労働力が育ちにくい
企業にとって成長していくことは、競争社会のなかで生き残っていくためには必要不可欠なことです。これまで働いてきた人たちは知識や経験も豊富というメリットがある一方で、会社に新しい風をもたらすということは期待しにくいことがあります。また継続雇用された人たちが、従来と同じ業務を行うと、若い社員たちの挑戦の場がなくなり育ちにくいというデメリットが発生してしまいます。
継続雇用の従業員のノウハウを若手社員に指南してもらう機会を設けるなど、できるだけ若手が育つように継続雇用の人たちをうまく活用していくことも大切です。
希望者は全員再雇用する必要がある
再雇用制度の特徴として、「希望者全員再雇用」というルールがあります。つまり、企業側にとって再雇用に相応しくない人材(生産性に見合わないなど)でも再雇用しなければならないということです。
上記でみたように、継続雇用となった人たちの給与水準は大幅に縮小しない傾向にあることが分かります。つまり、契約内容によっては新卒を雇うよりも高い給与の支払いがかかることになってしまいます。それでも知識や経験が豊富な点がメリットとして上回る場合はいいのかもしれませんが、必要な場合には、能力に応じた再配置や契約内容の見直しなどを行うことも大切です。
再雇用制度のデメリット(従業員側)
従業員側にもこの制度を利用することでデメリットがある場合があります。
それは主に次の二つです。
【再雇用制度の企業側のデメリット】
• 年金が減額される場合がある
• 役職や仕事内容が変わる可能性がある
以下で詳しくみていきましょう。
年金が減額される場合がある
70歳未満の人が会社に就職し厚生年金保険に加入した場合、また70歳以上の人が厚生年金保険の適用事業所に勤める場合には、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額に応じて年金の一部、または全額が支給停止となる場合があります。これを「在職老齢年年金制度」と呼びます。
計算方法などは年齢区分によって異なるため、自分の年齢できちんと調べておきましょう。
・65歳までの在職老齢年金
60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
・65歳以上の在職老齢年金
65歳以後の在職老齢年金の計算方法|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
役職や仕事内容が変わる可能性もある
再雇用制度では、企業と従業員とで契約を結びなおす必要があります。その際、業務内容や役職に変更を求められる可能性があります。場合によっては年下の社員が自分の上司になったりすることもあるでしょう。そういう際にやりがいを感じにくいなどもマイナス作用が働く可能性も否めません。継続雇用を希望する人は、その辺の変更も発生すると理解したうえで検討することが大切です。
まとめ
再雇用制度は、定年後も現行の会社働きたいという人たちを応援する制度です。
企業側からすれば、同じ人を雇うことで顧客離れのリスク回避や採用コストの削減が見込まれます。従業員側にも同じ職場で働けるということで精神的な安定も大きいというメリットがあります。
一方、希望する社員は全員再雇用するというルールとなっており、生産性が低い人でも再雇用する必要があり、企業側にとって新卒よりも高い給与を払うことが果たして会社のためになるのか再考する必要があります。時として仕事内容や役職など再契約前に見直しておきましょう。また従業員側もそのような変更が発生する可能性も理解したうえで、それでも同じ会社で働きたいのか契約前にきちんと整理しておくことが大切です。